
ストーリーx音ゲーx謎解きx諸々「vivid/stasis」ネタバレほぼ無しレビュー
2025年7月6日に正式リリースを迎えたvivid/stasis(通称ビビステ)は、ビジュアルノベル×音楽ゲーム×謎解きが融合した作品です。Windows専用でSteamにて配信されており、無料で配信されています。
筆者は一つ前のver.4時点で「おもろいゲームがあるで」と人に教えてもらい開始し、結局100時間近くプレイし、現在全実績を取得したのにまだやることが色々あるという状況です。
もともと仕様やバグで遊びにくいところも散見されましたが、正式バージョンではかなり改善しています。始めるなら今。
ただし、一番致命的なバグである価格は修正されておらず、現在も無料のままになっています。作者は気付いていないのかもしれません。
複数ジャンル盛り込みのシナジー、作り込みの深さ、170曲(今後更に増えるらしい)という大量の楽曲数、そして制作チームの音ゲーに対する理解の深さ。
その魅力をなるべくネタバレなしでお伝えしてゆきます。
気になっている方で一切ネタバレを見たくない方は、今すぐこのページを閉じてプレイを開始して下さい。きっと、あなたを失望させない体験が待っているはずです。
ストーリーと音ゲーの融合
本作はビジュアルノベルと音ゲーが組み合わさった作品です。ストーリーを盛り上げる要素として楽曲と音ゲー要素がある、という認識が正確かもしれません。
ストーリーは行方不明になったお姉さんを探すサスペンス・ミステリーで、舞台は種子島から始まります。日本だと聖地巡礼しやすくていいですね。なお、背景は実写をぼかしたものなので、頑張れば特定できそうです。
ストーリーのフローチャート。途中の分岐で楽曲を解禁できます
会話画面。往年のノベルゲー感
音ゲーとの融合として印象的なのは、ストーリーの山場に登場するボス曲です。専用ムービーが付いています。
アーケードの音ゲーでボス曲に思い入れのある方は多いと思いますが、本作ではストーリーを絡めることで印象を強くしているというイメージです。もちろん難易度も基本高めになっています。
特に後半のボス曲では、譜面ギミックの多様さも相まって「音ゲーってこれだけ演出できるのか」という気付きがありました。また、作者の音ゲーへの深い理解とセンスを感じる楽曲キュレーションにより、ストーリーに見事に合ったボス曲が登場します。
なお、ストーリーは現状英語のみでの提供です。スラングが結構出てくるうえに分量が多いので、多少英語ができる程度では相当読むのに時間がかかります。
単語を調べたり、Google Lens、PCOTなどの翻訳アプリ、非公式の日本語スクリプト(チャプター1のみ)を活用しましょう。
また、ある程度諦めて大まかな理解に留めるのも肝要でしょう。
modの仕組みも現状無いので、対応が望まれます。
増え続けるジャンル、終わらないコンテンツ
このゲームの恐ろしいところは、どんどんとジャンルが足されていく盛りだくさんな仕様です。あくまでメインはストーリーと音ゲーの融合ですが、大きなところでは謎解きが追加されます。脱出ゲームが好きな人におすすめ。
ストーリー進行のために謎を解く必要があり、至る所で登場します。謎解きの品質については、正直なところ理不尽に感じる場面もあるので、詰まった時は適度に切り上げて、攻略情報を参考にするのがオススメです。
突然の謎解き。1日考えて分からなければヒントを見た方が良い
ネタバレになるため詳細は控えますが、さらに要素が増えてジャンルを考え直さないといけなくなったり、非常に時間のかかるモードが追加されたりと、とにかくコンテンツが豊富です。
結果として、ゲームのボリュームはかなり大きくなっています。私の場合、100時間を超えても「やれば終わる系」のコンテンツすら消化しきれていません(大半の時間は謎解きで詰んでいた気がしますが)。ストーリーを読む速度や解禁をどれだけやり込むかにもよりますが、相当な時間を楽しめる作品です。
音ゲーとしての完成度
本作はスタンダードな4レーン音ゲーです。画面に4つのレーンがあり、音楽に合わせてノーツ(ボタン押し指示)が降ってくる形式を採用しています。最高判定の幅も、体感ですが±30msはありそうなのでスタンダードです。が、いくつか特徴的な点があります。
選曲画面はスタンダードな音ゲーという感じ
1つ目はバンパーノーツです。
バンパーは左右2つのレーンにまたがるノーツで、どちらのレーンで押しても良く、判定がないため適当なタイミングで押しても最高判定が出るクソザコノーツです。
単品で来ても簡単なのですが、その分縦の密度が高い配置に紛れ込むことが多いです。叩きすぎると後続のノーツを早く取りすぎてコンボが切れるという巧妙な罠があります。連打するには速すぎるので、結局左右の指で取るかを考えないといけなくなる、認識阻害される厄介ノーツです。
青色と赤色のものがバンパーノーツ
2つ目はギミック(特殊な演出効果を持つ)譜面です。
多くの音ゲーでもそうであるように、大半は普通の譜面ですが、中にはギミックがヤバい譜面も色々あります。
vivid/stasisでは、考え得るギミックは網羅されているんじゃないか、というくらい多様なギミックが用意されています。流石にカモメは飛んでこないですが、それに引けを取らない凶悪なものが沢山あるので、ぜひ自分の目で確かめてみてください。お使いのPCは正常です。
3つ目はシステム面です。特に、自然とプレイヤーの実力向上への意欲を高める仕組みが多層的で秀逸です。
まずは、譜面解禁のために地力が必要です。いくつかのモードでそうですが、高難度譜面には解禁条件があり、相応の成果が必要です。また、解禁された譜面も所定の条件で完走しないと常駐しないものが多いです。
なお、ストーリー進行は音ゲー初心者でもクリアできるよう、低難度から段階的に用意されています。
いわゆる段位認定(連続する4譜面を特殊なゲージでクリアする実力試験)に加え、オンライン対応のレーティングシステムも搭載されています。全世界のプレイヤーと順位を競うこともできます。
このレーティングシステムが巧妙で、基本的に高難度譜面で多少崩壊したスコアを取る方が、下位譜面で高精度を出すよりも良いレートになります。そのため高難度譜面の解禁意欲が湧くのですが、ボス曲の解禁には高いスコアを求められるという設計です。しかも設定が絶妙。これに気付いた時は震えました。一生地力を上げさせられるやん。
ボス曲の解禁。基本的にスコアを求められる
また、場合によっては前衛的なオプションを強制される場面もあります。例えばハイスピード(譜面の落下速度設定)が決まっていたり、決まっているならまだいいんやが、という設定があったりします。ノースピって常識的な設定だったんだ。
繰り返しプレイが必要なタイプの解禁要素も、音ゲーが上手いほど早く終わる仕組みになっています。
総じて、音ゲーとしての完成度が高く、面白さの主軸である地力向上にも上手く寄与する仕組みが組み込まれています。自分の地力では解禁できていないものもまだまだあるため、今後も長く楽しめそうです。
豊富な楽曲と豪華アーティスト陣
楽曲の充実ぶりも驚異的です。現時点で170曲近くが収録されており、オリジナル楽曲はもちろん、有名楽曲やコラボ曲が盛り沢山です。
Limeさん、EBIMAYOさん、Reku MochizukiさんといったBMSでも有名なアーティストから、かめりあさん、Akira Complexさん[1]など商業でも活躍している方々まで、一体どうやって集めたのか謎です。もう一度言及しますが、このゲームは無料です。
(恐らく)日本ではあまり馴染みのないアーティストも多く、大半は初めて聞いた曲ですが、とても良い曲が揃っています。制作陣のキュレーション力を感じます。
個人的お気に入りはASTELLIONです。このゲームオリジナルではありませんが、実に音ゲーに合う楽曲です。BPM696というのも安心感がありますね。
全楽曲描き下ろしのドット絵ジャケット
楽曲全てに、雰囲気に合わせたドット絵調のジャケットが用意されています。確信はないですが、オリジナル楽曲はもちろん、コラボや他の楽曲に至るまで、なんと全てのジャケットが描き下ろしです。これがとても良い。
例として、元々ジャケットがある曲を見てみましょう。
TanchikyさんのENERGY SYNERGY MATRIXでは、既存ジャケットにフィルターを掛けるのではなく、ムービー中の三味線を持った猫で新たに描かれています。
ESMの元々のジャケット
ESM vivid/stasis版
ムービー中の三味線を持った猫
綿菓子RUSHでは、元々のキャラクターは同じですが髪の色をvivid/stasisに合わせて紫にするなど、世界観の統一が図られています。
綿菓子RUSHの元々のジャケット
綿菓子RUSH vivid/stasis版
Rotaenoというゲームのコラボ楽曲、おなじみETIA.さんによる「MVURBD」では、主人公のサタデーがグラサンを掛けたジャケットで、曲の疾走感とベストマッチしています。
MVURBDのRotaenoのジャケット
MVURBD vivid/stasis版
多くのジャケットや一部の立ち絵は、Fiddyさんによるもののようです。立ち絵は特徴的な絵柄なので、見れば気付くことでしょう。
作り込み
ここまで見てきたように、全編通してドット絵風でvividなアートワークが貫かれています(立ち絵は除く)。ゲーム中のフォントやグラフィックは分かりますが、楽曲のジャケットまで徹底しているのは圧巻です。印象統一に対する熱量を感じます(おそらく制作の都合上、急に絵柄が変わったりはしますが……そこはご愛嬌)。
また、譜面のギミックについては触れましたが、このゲームは全編通してギミックに溢れています。気づかないものも多くあると思うので、一通りクリアしたらネタバレを見て回収する、という遊び方になるかと思います。そこで改めて作り込みとボリュームに驚くことになるかもしれません。元々の作り込みと、長年の開発によるアップデートを感じることが出来るでしょう。
何故か無料
おかしいよ!
まとめ
総じて、「音ゲーって面白いんだ」という気付きが得られるゲームでした。
音ゲーでは己の地力を高める修行が面白さの大きな部分を占めています[2][3] が、本作ではストーリーをメインに据え、謎解き・演出・ギミック・システム・印象の統一などでゲームとしての面白さの底上げを図っており、上手く機能しています。
それぞれ個別に音ゲーに取り込んでいる例は従来からあれど、1パッケージの音ゲーで上手く内包していることが、他の音ゲーと異なる点ではないかと思います。
製作者の音ゲーへの熱意と理解が見られる、個人的2025ベスト音ゲーです。
今年の終わりまで楽曲追加を含めたアップデートが予定されているので、まだまだ遊びたいと思います。
(おまけ)直近のイベント
- 近々bugfixを含めた5.0.1が配信されるようです
- RTA in Japan Summer 2025では8/13にShowcaseとして出走されるとのこと。めでたいですね。恐らくとんでもギミック譜面のプレイなのでネタバレはあまりないかと思いますが、気になる方は早めにクリアして、腕組みしながら配信を見ましょう
- speedrun.comでは、走者のサタデーが4名見かけられます。正式版で色々定まったので、これから数が増えるかもしれません。通常のRTAが見られる日も楽しみですね。Autoplay ONで音ゲーしないオプションが一般的なようなので、もはや音ゲーではないようですが……。